CRITICISM/ARTICLE

Force Inc/Mille Plateauxを紹介する

 フォース・インク/ミル・プラトーは、フランクフルトを拠点とする、マルチプルなエレクトロニック・ミュージック・レーベルである。このレーベルのオーナーはアヒム・ゼパンスキーという人物。今はなき仏の哲学者ジル・ドゥルーズに傾倒する彼は、ポスト・レイブ・シーンおよびポスト・テクノの理念的かつ実践的な可能性を探究する自身のレーベルの名称として、ドゥルーズの主要概念のひとつである「フォース=力」と、ドゥルーズ&ガタリのあまりにも有名な書物から「ミル・プラトー」を借用、その後、さらにドゥルーズ&ガタリの概念である「リトルネロ」をサブ・レーベルの名前に冠している。またアヒムはレーベルのスタート以前の80年代に、一時的にはあるがフランクフルトの伝説的なノイズ・エクスペリメンタル・グループP16D4に参加していたことがある。P16D4の中心人物であったラルフ・ウエホウスキーは、現在もRLWとしてバーナード・ギュンターやジム・オルーク等とコラボレーションを続ける一方、P16D4と同時期に登場したコンセプチュアルなノイズ・ユニットSBOTHI(SWIMMING BEHAVIOR OF THE HUMAN INFANT)のリーダーであったアヒム・ヴォルシャイトと共に、実験的なサウンド/アートのオーガニゼーションであるゼレクシオンを主導している。この関係からかヴォルシャイトの近作2枚がリトルネルよりリリースされている(ちなみに二人のアヒムを同一人物視する過ちが日本では時折見られるので御注意を)。このあたりの連繋を、たとえばドイツの別の都市ケルンで、やはりノイズ系の重要人物であったフランク・ドマートやマーカス・シュミックラーが、現在ではマウス・オン・マーズやA-MUSIKの後見人的存在になっていることと考え併せると、ドイツにおける電子音楽とテクノの意外なまでに根深い連続性を見い出すことが出来るように思える。
 初期のミル・プラトーは、やはり何といっても、オヴァルとアレック・エンパイア、クリスチャン・ヴォーゲルの作品を世に送り出したという点で評価されるべきだろう。思えば彼らの登場によって、いわゆる「テクノ」と「エレクトロ・アコースティック」の折衷的・中間的存在としての電子音響系アーティストたちが、本格的に注目されるようになったのだから(3者とも現在では別レーベルに移っているが)。二つのコンピレーション・シリーズ"Modulation & Transformation"(4で終了)と"Electric Ladyland"(6で終了)には、多様な試行錯誤も含めて、クラブ・ミュージックの異化に賭ける果敢な取り組みが記録されている。
 レーベルにとって重要なタ−ニング・ポイントとなったのは、新たなコンセプトによるコンピレーション"Clicks & Cuts"だった。ここでは「クリック」「カット&ペースト」「グリッチ」等といった、デジタル・ミュージック特有の音響的要素の積極的な導入と、その結果としての構造的な変形が、ラジカルに押し進められた。現在、クリック・テクノ(orクリック・ハウス)と称される傾向の端緒は、まさにこのコンピにあったといっても過言ではない。2001年、CD3枚組という破格のヴォリュームによる"Clicks & Cuts 2"もリリースされたが、そこには36組ものアーティストが参加しており、さながら新世紀の電子音響系の総見本市のような様相を呈していた。その中でも、オートポイエーシス(現在はエッケハルト・イーラーズとランダム・インクに分裂)、ヴラディスラブ・ディレイ、SNDなどはレーベルの主力アーティストといってよい。もっとも一方で、別のレーベルからデビューしつつ、第二作がミル・プラトー(もしくはその姉妹レーベル)という人が非常に多いのは多少気になるのだが。
 現在、フロア向けポスト・テクノのフォース・インク、非フロア向けポスト・テクノおよびメタ・アンビエントのミル・プラトー、先進的なDJユースの12インチを中心とするフォース・トラックスと更にそのサブレーベルのフォース・ラブ、ポスト・ブレイクビーツのポジション・クローム、実験電子音響/サウンドアートのリトルネルと、レーベルは分岐、増殖を極めているが、フォース・インク/ミル・プラトー/フォース・トラックスのリリースの違いがやや見えにくくなってきている感は否めない。しかし紛うかたなき老舗レーベルでありながら、けっして野心的な歩みを辞めない、そのエネルギッシュなスタンスにはまだまだ要注意が必要だ。今後はゼパンスキー自らがハンドリングしていると言われるリトルネルの動向と、近々のリリースに向けて鋭意準備中だというクリック・ミーツ・ヒップホップ(クリックホップと称されるようだ)のコンピレーションが、個人的にはおおいに気になっている。そこにはおそらく、何年後かの電子音楽のニュー・トレンド(?)が、胚胎しているであろうからだ。

追記:結局「クリックホップ」は不発(?)に終わり、アヒムは続けざまに今度は「ハイパーディスコ」なるコンセプトを打ち出したが、それもあっけなく例の「エレクトロクラッシュ」に持ってかれてしまった(笑)。

Last Update : 2003/09/18