COLUMN/ESSAY

All Tomorrow's Parties 2001

 世界に大小あまたある音楽フェスティバルの中でも、イギリス、東サセックス州のキャンバー・サンズで催されるオール・トゥモロウズ・パーティーズ(以下ATP)は、そのユニークかつ一本筋の通ったアティチュードによって、音楽ファンの熱い支持を得ている。 ATPでは、毎年一組のバンドがホストとなり、独自の視点で出演するアーティストを選出し、三日間のプログラムが組まれる。このやり方は非常に面白い。と同時に、ある意味では危険でもある。ホストとなるバンドの選択次第では、単なる仲良しフェス、内輪のお祭りになってしまう可能性もあるからだ(それが楽しいという人もいるだろうが)。あるレンジとヴァラエティを持ったプログラムを成立させるには、まずホストであるバンド自体が、人脈的な、そして音楽的な、豊かさと拡がりを持っていなくてはならない。去年のホストはモグワイだったという。そして今年ホストに迎えられたのはトータスだった。
 発表された出演者のリストを見て、興奮を押さえ切れなかったのは、僕だけではあるまい。なんてムチャクチャな(笑)、そしてなんてトータスらしいラインナップだろうか。ロックとヒップホップとジャズとエレクトロニカとをあっさりと横断し、キャリアも知名度も無関係に、ただただトータスの5名が純粋に好きなバンドをピックアップしただけと思しき顔ぶれは、まちがいなくこの機会を最初で最後に、二度と集まることはないだろうと確信できるものだった。とはいうものの、こんなブッ飛んだプログラムで、ほんとうに観客が集まるのだろうか?、という一抹の不安もあったのは事実。ところが、そんな心配はまったくの杞憂に過ぎなかった。前売りチケットは売り切れてしまい、会場は満員の観客で溢れていたのだった。
 キャンバー・サンズは、海岸に程近い、のんびりとした雰囲気の田舎町で、牧羊地に囲まれた広大な土地のあちこちに別荘らしきこじんまりとした家が立ち並んでいる。会場のホリデイ・センターは、普段はファミリー向けの保養施設にでも使われているのだろう、お世辞にも新しいともキレイだとも言えない建物で、大小のフロアが1階と2階にひとつずつある(あと寂れたレストランや十年前から変わってなさそうなゲームコーナーなどもあります)。観客は階段を昇り降りして、二つのフロアで並行して進行するライヴを見るわけだが、タイムテーブルが微妙にズレていて、上手く工夫すれば、すべてのプログラムを(全部ではないけど)見ることができるようになっている。僕はもちろん、そうしてみました(笑)。

 今年のATP、記念すべきトップバッターは、ウィーンからやってきたラディアンだった。ドラムス、サンプラー、ベースの3人組で、知る人ぞ知る電子痙攣音響レーベル、メゴがプッシュしている新鋭バンドだ。タイトでミニマルな、だが不思議なエネルギーに満ちたサウンドは、池田亮司がファンクをやっているようでもある。シブい音だが、すごくカッコよかった。ジ・エックス。オランダ出身、もうベテランといっていいバンドで、ポリティカルな姿勢と民族音楽的要素をまぶしたアバンギャルドな演奏で知られる。彼らは以前、トータスとのコラボレーション・アルバムもリリースしていた。どこか無骨さを感じさせる男女ヴォーカルが魅力だった。続いて期待のヒップホップ・ユニット、アトモスフィア。レコードで聴くのとはちょっと印象が違って、若さゆえの荒さと洗練されたスタイルが共存している。次はビーフハート的フリーキー・ロックのUSメープル。ほとんど曲の境目が分からないほどコワレまくったアレンジと、マジにおかしいんじゃないかと心配にさえなってくるアル・ジョンソンのエキセントリックなヴォーカル。マイク・ラッド。サンプラー&ギター、ドラマー、DJを従え、本人もMCをしつつサンプラーも操る。オリエンタルなサンプルを使ったり、ハードロックみたいになったり、突然歌い上げたりと、アイデア豊富な曲調で、かなりウケていた。サン・ラ・アーケストラ。もちろんサン・ラはいないのだけど、12人から成るメンバー全員が、あのきらびやかなコスチュームで現われただけで感動してしまう。正直、演奏自体はさほどでもなかったのだが、爺さんたちの姿を見れただけでよしと思えた。デフ・ジャクス・フィーチャリング・カンパニー・フロウ(EL-P&MR.LIF)&キャニバル・オクス。この組み合わせはちょうど良い具合に押しと引きのタイプに分かれていてなかなかバランスが良い。EL-Pはノリノリだった(僕は見てなかったのだが、ノリ過ぎてライヴの最後に昏倒したらしい)。そして初日のトリはトータス。『スタンダーズ』1曲目の「セネカ」からスタート。音がものすごく大きくて驚く。ファースト・アルバムからの曲もやったりして、かなり幅広い選曲だったが、繊細な部分と乱暴な部分のメリハリが更に増していて、ライヴ・バンドとしても、また一回り大きくなったように思えた。来日公演が楽しみ。大満足して階下に降りると、プッシュ・ボタン・オブジェクトのDJタイムになっていた。夕方5時から始まって、もうすっかり深夜だというのに、沢山の人が踊っている。このまま朝5時まで続くのだ。それも毎日!

 二日目はトニー・アレンでスタート。ベテランなのに会場が開いたばかりでまだ客が少なかったのが残念だったが、ホンモノのアフロ・ビートを聴かせてくれた。ジ・エターナルズ。アメリカのバンドとは思えないニューウェーヴィーなダブ・ロックで、スカスカの音が逆にクール。シンガーのデーモンは元スリル・ジョッキーのスタッフで、ケーシー・ライスとスーパーESPもやっている。デーモンのパフォーマーぶりも光っていて、これからもっと人気が出そうだと思った。キャレキシコはホーンも入った大所帯で、アルバムよりも更にアーシーでカントリー的な演奏を繰り広げた。途中でトータスのダグ・マッカムがゲスト出演して客を沸かせていた。そしてフリー・インプロヴィゼーションの最高峰デレク・ベイリー。事前には告知されてなかったが、何とケーシー・ライスとの共演。ベイリーのギターをケーシーがコンピュータにリアルタイムで取り込み、音響加工して再出力する、という野心的なコラボレーションで、しかも大成功していた。ラムチョップ。大きなフロアで音が拡散してしまうのが惜しいようなデリケートな演奏で、もっとゆっくり聴いてみたくなった。ザ・シー・アンド・ケイクは、2月の来日の時と同様、キーボードも加えた5人編成。長年のツアーで鍛え抜かれたバンド・アンサンブルと、サム・プレコップの浮遊感に満ちたヴォーカルの組み合わせは、何度聴いても唯一無二だと思える。そして最後は人気エレクトロニカ・ユニット、ボーズ・オブ・カナダ。レコードではややつかみ所のない感もあったのだが、キラキラした音色のメロディアスなシンセ・ワークと、重低音のリズムとのアンバランスな組み合わせが絶妙で、いかにも売れそうなサウンドだと再認識させられた。この日のもうひとつの目玉だったESGの出演はキャンセル、これには個人的にも残念無念。DJはステレオラブ〜トータス。ティム・ゲインが素敵なラウンジ系の曲を次々とスピンして大ウケしていた。ジョン・ヘーンドンとケーシーによるDJは力尽きて見られませんでした(翌日聞いたところではケーシーではなくプレフューズ73のスコット・ヘレンがDJをしたらしい)。

 最終日。いきなり一番手のブラック・ハート・プロセッションはキャンセル。リック・リゾ(イレヴンス・ドリーム・デイ)とタラ・キイ。アルバム同様、純度の高いプリミティヴ・サイケ・フォークの世界。70年代からタイムスリップしてきたかのような雰囲気で、ひたすらエモーショナルにギターをかき鳴らすタラに、二人のCDを出しているスリル・ジョッキーのオーナー、ベティーナが、ずっと大声で声援を送り続けていた(笑)のが印象的だった。ブロードキャスト。果たしてどんなライヴなのだろう?と思っていたのだが、ほぼ完全にギター・ロック・バンドになっていた。ライヴの迫力という点では、すでにしてステレオラブよりも上だろう。コケティッシュな女性ヴォーカルの立ち居振るまいが魅力的だった。フレッド・アンダーソン・トリオ。トリオと言いつつ、トータスのジェフ・パーカーが全編、客演。シカゴ・フリー・ジャズの歴史の厚みをいやおうなしに感じさせる、ため息が出るほど素晴らしい演奏だった。ヨ・ラ・テンゴはさすがベテランだけあって、さりげなく始まったと思ったら、あっという間に満場の聴衆を虜にしていた。昨年の日本でのライヴもそうでしたね。プレフューズ73。あのサヴァス&サヴァラス、デラロサ&アソラの才人スコット・ヘレンによる第三のユニット。きわめてキャッチーでDOPEなデジタル・ヒップホップは話題になること必至だろう。ライヴではスクラッチDJも加わり、更にアトモスフィアのスラグがフリースタイルでラップをしたのだが、これが非常に効果的だった。鮮烈極まるデビューと言えるだろう。オウテカ。相変わらず無愛想なムードで始まったが、彼らならではの強烈なビートに、ノイジィな電子音が嵐のように吹き荒れ、織り重なっていくさまは、聴いていて戦慄するほどだった。一昨年に日本で見た時より、またしても進化した印象。おそるべき連中だ。そして、ATPの大トリを飾ったのは、あのテレヴィジョンのリユニオン。トム・ヴァーライン、リチャード・ロイド、フレッド・スミス、ビリー・フィッカのメンバーが顔を揃え、往年の名曲を次々とプレイしていった。ヴァーラインの鼻にかかったヴォーカルも、ロイドの表現力豊かなギターも、年齢をまるで感じさせず、彼らの黄金時代を知る筈もない若い観客たちにも、圧倒的なインパクトを与えたようだった。アンコールの拍手は止むことがなかった。

 こうして、三日間のATPは幕を下ろした。正直言って、心の底からワクワクする、めくるめく体験だった。こんな途方もなく素敵なフェスティバルに電車を乗り継ぐだけで行けるイギリスの音楽ファンは幸福だと思った。このような奇跡的な催しを、日本でも行なうことができないだろうか?、いま僕はこんな不可能な夢を抱き始めている……
 今年の10月、初の試みとなるATPのアメリカン・ヴァージョンが、ソニック・ユースをホストに迎えて催されることになっている。そして来年2002年のホストには、事もあろうに、何とあのスティーブ・アルビニ率いるシェラックが抜擢されたのだという。既にフガジ、ロウ、プラッシュ、ウィル・オールダム、ザ・ブリーダーズといった名前が挙がっている。何てことだ。今後毎年4月の頭はスケジュールを空けておかねばなるまい。

追記:といいつつ、その後は一度も行けてません(苦笑)。

Last Update : 2003/09/18