確かずいぶん以前にも紹介したことがあるが、ニュージーランド出身、現在はイタリア在住の鬼才ギタリスト、ディーン・ロバーツの久々のアルバムが登場したので取り上げたい。エクスタティック・ピース!からテラというバンドでデビューし、ソロになってからはシュールレアルなサウンドスケープと枯れた歌心を絶妙にミックスした独自の世界を追求してきたロバーツだが、タワー・レコーディングなど充実したコラボレーションを経験したニューヨークを去りイタリアへと渡ってから、しばし音信が途絶えていた。
しかしそこはクセ者、ボローニャの実験&即興演奏シーンの才人たちと当然のごとく親交を結び、このほど何とクランキーから新作"Be Mine Tonight"を発表した。ロバーツがギターとヴォーカル、ソロでも活動するクリスチャン・アラチがもうひとりのギター、アントニオ・アラビットがドラムス、そしてボローニャの顔役ジュゼッペ・イエラシと気鋭のサウンド・アーティスト、ヴァレリオ・トリコリが全面協力して、ロバーツの最高傑作と言い切れる素晴らしいアルバムが誕生した。スタイルとしては、これまでの作品の中ではもっともオーソドックスなロック・アルバムと言えるものなのだが、聴き込めば聴き込むほどに、異様なほどに濃密できめ細やかな、空間的な音処理や、デリケートきわまる音のテクスチュアが、じわじわとあぶり出されてきて、興奮を隠しきれない。ロバーツの歌はほとんどセクシーでさえある。過去の音響的な実験がすべて注ぎ込まれながら、なおかつまぎれもないロックンロールの魂をも感じさせる名作だ。
イエラシは自らフリンジスという注目レーベルを主宰しているが、最近、米のセディメンタルからこれも久々のソロ作をリリースした。さまざまな楽器や音素材を駆使して、いわば「グリッチ以後」の即興演奏の語法をリアライズしてみせた意欲作だ。また"Be Mine Tonight"ではエンジニアを務めたトリコリもボウィンドという新レーベルを興し、ファースト・ソロ"did they? did i?"を発表したばかり。こちらは精緻で秀抜なエレクトロ・アコースティックで、明らかに才能を感じさせる。どうもイタリアでは何かが起こっている模様だ。
(初出:クロスビート)