COLUMN/ESSAY

トラピスト

 ウィーンのメゴ周辺から忽然と登場し、一昨年にスリルジョッキーからジョン・マッケンタイアのプロデュースで発表したアルバムで注目を集めたポスト・ポストロック・バンド、ラディアン、そのドラマーであるマーティン・ブランドルマイヤーは、いま僕が今後の活躍をもっとも期待しているミュージシャンだ。彼の一度聴いたら忘れられない恐るべき個性的なドラミングと、音に対する鋭敏なセンスは、まさにマッケンタイアにかつて感じたものを彷佛とさせる。
 彼はこの1月、ラディアンとはまた別のバンドで、スリルジョッキーからアルバムを発表する。その名はトラピスト。メンバーは、ドイツ人だが長らくウィーンで活動しているギタリスト、マーティン・シーワートと、カナダ出身だがベルリン在住のダブルベース奏者ジョー・ウィリアムソン。いずれもヨーロッパの実験音響・即興演奏シーンでエネルギッシュに活動している人物だ。ブランドルマイヤーとシーワートは各種エレクトロニクスも操る。
 『ボールルーム』はスイスのハットロジーから出た1stに続くセカンド・アルバムだが、僕ははじめて聴いた時、興奮を押さえ切れなかった。けっして派手な音ではない、むしろ淡々とした、緩やかな演奏なのだが、その音の響きの重なり合いの余りの緻密さと美しさ、楽曲構造の独創性に、思わず耳をそばだて、心の底から唸った。ラディアンが包含していた可能性が、ここでは更に展開されている、そう感じられた。要するに、トータスやジム・オルークにはじめて出会った時と同じ耳のときめきを感じたのだ。端的にいってトラピストの音には、「ポストロック」「音響派」「フリー・インプロヴィゼーション」「エレクトロ・アコースティック」「グリッチ」等といった、90年代以降に前景化した音楽の先端的なエレメントが激しく交叉した「後」に起こる何かが、提示されている。これだけは必聴と断言しておきたい。
 ブランドルマイヤーは、これと前後して、NYのアーストワイルからもシーワートとのデュオ作を、更にラディアンのシュテファン・ネメスの新レーベルからキャピタル・バンド1としてのアルバムもリリースした。どちらも傑作。
(初出:CROSSBEAT)

Last Update : 2004/03/12