特に名は秘すが、日本でもかなり人気があるアメリカのロック・バンドに最近参加したミュージシャンに、彼とは旧知の別のミュージシャンが、なかばからかい気味に、だが微妙な本気さも含めて、こう尋ねたのだという。
「金のために、あのバンドに入ったんだろう?」
なぜなら彼のそれまでの経歴からすると、そのバンドに加入することは、音楽的な後退としか見えないものであり、ほとんど何かの間違いとしか思えないことであったからだ。
これに対して、彼は表情ひとつ変えず、平然と答えた。
「いや、音楽的に共感したんだ」
彼に較べて、エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムズのなんと正直なことか?
「現金のための26ミックス」。いったい総額幾ら稼いだのかは不明だが、これはエイフェックス・ツインが、過去にさまざまなアーティストから依頼されて、タイトルに従えば「金のために」行ったリミックス仕事を集成した2枚組CDである。もっとも古い音源が1990年で、最新作は2003年(といっても自作のリミックスだが)。テクノが全世界的なブームとなり、その頂点に鎮座する、紛れもない天才として、エイフェックス・ツインがあちこちから引く手あまたであった90年代前半がやはり多く、全体の2/3の曲がこの時期に集中している。確か本人がインタビューで語っていたことだと思うが、なんとオリジナル曲のパーツを一切使わず、自分の曲をリミックスと銘打って渡してしまったこともあったという(そのトンデモ・リミックスが収録されているのかは定かではない)。
十年以上に及ぶ時間の幅のせいか、今では消えてしまったアーティストも多いし、中には「こんなのもやってたのか!」と今更ながらに驚かされる名前もある。そしておそらく本人がまったく仕事を選ばなかったがゆえに、結果的にアナーキーとさえ言えるほどのバラエティが成立し得ている。何しろナイン・インチ・ネイルズとフィリップ・グラスが同居しているのだ。日本のアーティストも4組、BUCK TICK、ナーヴ・カッツェ、ビートニクス、竹村延和。エイフェックスにリミックスを頼んだこと以外に、4者の共通点は存在しないだろう。
とはいえ、この2枚組を聴くのにオリジナルを云々する必要はない。これは完全にエイフェックス・ツインの音楽になっているから。つまり、頭がクラクラするほど創造的な電子音楽に。
(初出:INVITATION)