REVIEW/COMMENT

ブラー『シンク・タンク』

 かつてブラーがオアシスとともに牽引した「ブリット・ポップ」なるジャンルは、すでに歴史的な語彙になっている。だが、キーワードが消えてもバンドの方は残ったのだから、一時の流行だけで潰え去っていった他の多くの英国産ジャンル&スタイル名よりは、よほどマシかもしれない。だが、同じ名称で括られていたとはいえ、ふたつのバンドの音楽的キャラクターは対極にある。オアシスが、いわば同じ歌を歌い続けることで強固なアイデンティティを保っているのだとしたら、ブラーは、ことによると本人達にとってさえ、思いがけぬ変化を遂げていく姿を晒しながら、そこにぎりぎりの内的な一貫性を覗かせてきた。僕個人はどちらかのバンドに軍配を挙げるつもりはないが、少なくとも結果論で見る限り、ブラーの方が困難な戦いを生きてきたことは、ほぼ確かなことだろう。
 『シンク タンク』は、前作『13』以来、ほぼ丸4年を経たニュー・アルバムだ。周知のように、この間にデーモン・アルバーンは実質的なソロ・プロジェクトであるGorillazを大成功させた。また、結成以来のメンバーだったグレアム・コクソンが、立て続けにソロ作を発表した後、バンドを脱退している(本作には1曲だけ参加している)。ブラーは紛れもない危機にあったのだと思う。しかし、Gorillazから戻ったアルバーンは残った二人のメンバーとともにレコーディングを行い、このアルバムを完成させた。
 問題作だ。そして、そう受け取られることをバンドは百も承知だろう。前作に引き続きウィリアム・オービットがプロデュースに加わっているが、何と言っても話題は、新たなプロデューサーとして、ファットボーイ・スリムことノーマン・クックが参加していることだろう。なぜ、今になってブラーがクックと仕事をすることを求めたのかは不明だが、2曲をバンドと共同プロデュースしているクックは仕事人に徹しており、たぶん教えられなければそこからファットボーイ・スリムを聴き取ることは不可能だろう。そのことが逆にクック参加の必然性を物語っているのだとも言える。
 マシニックなビートからエスニックなグルーヴまで、多種多様なダンス・ミュージックの要素を包含しながら、しかも完璧に「ポップ」であろうとすること。このアルバムに込められた野心は、このようなものだろう。ブラーは変わった。だが今度の変化は、これまでとは違う。おそらくここでは、バンドの存在自体が賭けられている。
(初出:INVITATION)

Last Update : 2003/09/12