あの山崎まさよしが主演した『月とキャベツ』や、『草の上の仕事』で知られる監督、篠原哲雄の新しい映画を二本続けて見た。
まず後から公開される『きみのためにできること』のことを書こう。村山由佳の小説が原作なのだが、ちょっと設定が変わっている。最近、弟と一緒に結成したバンド、No'Whereでも注目されている柏原崇が演じる主人公が、テレビ・ドキュメンタリーの録音技師で、ある番組のスタッフとして沖縄の宮古島にやってくるところから映画は始まる。彼には実家の作り酒屋を手伝っている恋人がいて、ふたりはEメールで頻繁にお互いの近況を報告し合っている。宮古島での撮影は順調に進むが、番組のインタビュアーの女性ヴァイオリニストと、スタッフは何だかそりが合わない。どこか影のある彼女に主人公は惹かれるものを感じていく。やがて彼は、自分を録音の世界へと誘った伝説の録音技師(何と岩城こういち*漢字が出ないのでそちらで入れてください!)と、ヴァイオリニストが、かつて恋仲であったらしいことを知る。そうしたことを彼はEメールで恋人に伝えていくが、それが理由で次第に二人のあいだに距離が生まれていく……と、いうように、人物関係だけを取れば、わりと古典的なストーリーだと言えるのだが、舞台が古き良き風物がそのまま残った宮古島であるということと、録音技師という特殊な職業設定が、この映画のミソだろう。魅力的な「音」を採る職人というのは、なかなか魅力的なアイデアだと思うのだが、しかしこの作品では、その設定は必ずしも活かし切られていないような気もした。主人公と恋人、彼とヴァイオリニスト、ヴァイオリニストと録音技師、録音技師と主人公、というように、対になっている関係が幾つも描かれているので、ディテールに踏み込むだけの時間的余裕がなかったのかな?という気もする。ちょっと残念だ。
もう一本、こちらのほうが公開は早い『洗濯機は俺にまかせろ』は、何だかヘンなタイトルだけれど、実はそのままで、洗濯機の修理を得意とする中古電気屋の店員が主人公の映画なのだった。筒井道隆演じるこの青年と、バツイチでDJ(マワす方じゃなくてラジオで喋る方です)の電器店の娘である富田靖子、この2人の微妙な関係に、電器店に以前勤めていた不思議な人なつこさを持った小林薫扮する中年男と、向かいのパン屋のアルバイトの少女が絡んで、物語は進んでいく。あ、そういえば主人公はマンガ家志望でもある。とにかく、富田靖子の際立った存在感が光っている。いつのまにこのひとは、こんなスゴ味のある演技をするようになっていたのだろう、勝手気ままに生きているようでいて、実は夢への見果てぬ想いと繊細な感情を隠しているヒロインを、不思議なインパクトで演じていて、ちょっと驚いてしまった。いつもながら力の抜けた筒井道隆もいいけどね。どこにでもありそうな商店街の風景を端正に切り取っていくカメラといい、ほんわかした音楽といい、むかしの日本映画を彷彿とさせる雰囲気を持った作品になっている。
どちらの映画も原作の小説があって、どのぐらい忠実なのかはわからないのだが、篠原監督の映画って非常に一貫したトーンがある。いつもちょっと変わった職業や背景を持った、しかし基本的にはフツウの人物たちが描かれてるし、彼らを誠実で優しい視線が眺めているところも同じだ。あと、イヤな奴が全然出てこないところも。僕はヒネクレた人間なので、もっと意地悪な映画でも良いような気もするのだが、しかしこれが、篠原監督の持ち味なのだろう。殺伐とした昨今、穏やかな気持ちにさせてくれる映画も必要だ。
(初出:装苑)