『アドレナリンドライブ』を見たくなったのは、実をいうと音楽と主題歌を敬愛する山本精一&羅針盤が担当していることを知ったからだった。本紙読者なら、あのボアダムズのギタリストとして名前を知っている人も多いだろう山本さんが、一方で、羅針盤のように純朴(と敢えて言わせて頂きます)でシンプルな「うたごころ」を持ったポップス・バンドをやっているなんて、すごく感動的なことだと思うのだ。アルバム『らご』『せいか』、絶対必聴!。
矢口史靖監督の前作『ひみつの花園』は未見なのだが、第一作の女子高生がヒロインのスラップスティック活劇『裸足のピクニック』には大いに笑った記憶がある。躍動感に満ちたみずみずしさとともに、エンターテインメントとしてのツボを心得た監督だという風に思った。前作から3年ぶりということだが、こんな上手い人でも3年も新作を撮れないのだろうか?。難しいものですね。
羅針盤のテーマ曲「アドレナリンドライブ」(アップテンポの軽快なチューンだ)がカーステから流れているというシーンから映画は始まる。安藤政信演じる主人公はレンタカー会社で働く平凡な男で、口煩い社長を助手席に乗せていた時、誤って前の車に追突してしまう。しかもそれがヤクザの車で、彼は乗っていた男にヤクザの事務所に連れ去られてしまう。ところが、車の修理代として500万円を払えと脅され、左手の親指を折られたりしていた矢先、その事務所で突然、ガス爆発が起こり、ヤクザがほとんど全滅してしまうのだ。一方、石田ひかり扮するヒロインは看護婦なのだが、とにかくマジメなだけが取りえであって、後輩からも密かにバカにされている。そんな彼女が、コンビニに買い物(といっても実質はパシり)に行った時に偶然、爆発事故に遭遇する。彼女は生き残りの青年を助けだし、一緒に救急車に乗るのだが、彼を連れてきたヤクザも重傷で同乗することになる。事務所にあったノミ屋のウラ金2億円とともに……ここから映画は、あれよあれよという間に、トンデモない方向へと転がりまくっていくのである。『裸足のピクニック』で見せた、降りるに降りれない(?)ジェットコースター的な展開の妙は健在。細かいくすぐりと、ギャグをストーリーにしっかりと絡ませながら丹念に繋げていくセンスは、日本映画では随一の才能だと思う。
要するに、素材はともかくとしても、全くイケてない凡人の男女が、異常なシチュエーションに放り込まれた時に、どうなるか?、というのが、この映画のテーマといえばテーマである。これは映画では内外問わず、昔から繰り返し描かれてきたものであって、特に目新らしいものではない。だが、この映画には、その荒唐無稽な筋立てにもかかわらず、奇妙なリアリティがあるのだ。それはごく何でもない主役二人の掛け合いの端々とか、彼らと他の登場人物ーーVシネではお馴染みの松重豊がコワモテのヤクザを、その子分たちを若手お笑いのジョビジョバが、婦長を角替和枝がそれぞれ好演しているーーとの会話などに、ふと現われる、一種の空気感のようなものなのだが、この雰囲気は貴重なものだと思う。この独特の感覚を矢口監督は、おそらく8ミリを撮っていた(んですよね)自主映画時代に培ったのだろう。言葉で上手く説明できないのだが、監督と登場人物と観客の視点の高さがおんなじ、という感じがするのだ。つまり、見ていてとても気持ちが良いのである。
ところで、山本精一&羅針盤の音楽はどうかというと、見る前にはちょっとミスマッチなのではないかと思っていたのだが、不思議なほどに映画に溶け込んでいた。これもたぶん、先の「リアリティ」と関係のあることなのかもしれないのだが、残念ながらスペースが尽きた。とにかく、見て聴いて損はないと思います。
(初出:装苑)